大阪市立桃陽小学校×北村成美 (3日目:最終回)
2011/10/26(4-5時間目)

2階にある体育館のギャラリーの窓からは、秋晴れの空が見えます。
チャイムの音が鳴った時には、既に8列に並び、しげやんと6年生のみんなとの「呼吸」が始まっていました。
足を上げたり、体をゆすったり。
もじもじあるきにうしろあるき
前に歩いたり、横に歩いたり・・・。
一段落ついた後、前に手をついて、手をばたばた。うあ~っとアップしていって。
既に、一体感が感じられます。
ジャンプ。立って、背中から転んでのびて、転んで、深呼吸。
即興で繰り広げられる呼応の動きの後、「日直さんどうぞ」の言葉で挨拶をします。
北村さん:「えっと、今日、5時間目、いよいよ5年生に見せます。2階からみてもらう。どこにいる人もみえる。向こうを正面にして、もう一回並び直します。どうぞ!」
最初の形で、ストップです。「ポーズやから動いている人おらんはずやで」と北村さん。
アシスタントの下村さん・鈴木さんが上から見守っています。
何度か場所の確認をして、その後、いよいよ通し練習です。
「よっしゃ、おまたせ。いくで!」
その後、初めて、一曲を流して踊りました。
前回、子どもたちが考えた動きに、止まる所、動く所などの構成が加わり、更に作品としておもしろさが増しています。
アフリカっぽいダンス、寝たり転がったりしているグループ、人を縄跳びの縄のように揺らして、その周りを飛んでいるダンス、ウェーブをする人の周りを手を叩いて回っている動き・・・
輪になって、音を出して・・・まるで、秘境で行われているお祭りを見ているかのような感覚を覚えました。神にささげるリズムのような、踊りの周りでメラメラと炎が燃えているような、そんな雰囲気です。
しげやんがオーケストラの指揮者となり、演奏の指示を出します。最初は全員の動き、次に、全員の動きを止めます。そして、一グループずつ、演奏を再開させていきます。
動いているグループと止まっているグループ。
そして今度は、指揮者がストップさせていきます。
全員の身体が止まって、今度は、深呼吸
そして、ステージとひな壇に一斉に並びます。そして、また深呼吸。合図で一斉に元の場所に戻り、また全員で踊り狂います。その後、合図でその場に倒れ、ぴくりとも動かない。そして、しげやんがごろっと転がったら全員転がりながら前方に集まり、最初の場所に整列。そこで終了です。
しげやんからは、色んな言葉がかけられます。
「止まってから、動いているの、全部見えてる。」
「視線の動き。止まるってどういうこと?」
「本番ちがうことするかもしれん。でも、いつも一緒に動いているやろ。」
「寝てるとき、動いてるのかっこわるい。全部見えてるで。」
自分の動きがどのように見えているか、伝わっているかを聞き、自分の体と向き合います。
「5年生びっくりさしたいねん。うわってなるやろ。5年生うわってなるのみたら、めっちゃ気持ちいいし。」
発表に向けて、気持ちを引き締めて、4時間目は終了です。
***午後***
いよいよ本番前。まず、1回通してリハーサル。6年生のみんなからは、緊張感、集中、やる気が伝わってきます。
「私らプロ。そのために何がいるか。うてばひびく。同時に!!さいご。最初のときよりにぶってる。気合い十分あわてなくていいから。」
「おもてるだけでは表現にならへん。あらわさな。俺はこんだけやるんや~ってプロの世界、そういう世界で生きてるねん。」
「みんな気持ちあんねん。でも、体がそこにいってない。いけるかいかないじゃない。いくかいかんかやで。
もう1回通して練習しよか。」
最後の最後まで、しげやんから子どもたちへの本気のメッセージが発せられます。中途半端に「よくできた。」「がんばった。」とほめるのではなく、とことん「プロ」「うてばひびく」「体」を追求していくしげやんとそれに応えようとする子どもたち。
さあ、いよいよ本番です。
14:00整列完了。
「5年生の皆さんどうぞ。」の言葉で、5年生が入ってきます。
本番を、5年生は体育館2階のギャラリーから観ます。
6年生が醸し出す雰囲気に、5年生も緊張感を持って体育館を見守ります。
しげやんの合図で一斉に体育館に広がり、音楽と共に動きが始まります。
桃陽小学校の体育館。秋の昼下がりに、この世界の誰も見たことのない、世界で一つのダンスが繰り広げられていきます。グループごとに異なる動きをしているにもかかわらず、不思議な一体感が体育館を包みます。どこを切り取ってもおもしろく、ダンスを踊っているというよりは、ダンスが生みだされているというような光景。ギャラリーには、息をのんで見つめる5年生の姿がありました。5年生は、じっと、おしゃべりもせず、動くこともなく、階下で繰り広げられる踊りを見つめていました。
およそ6分間のダンスですが、踊る側も、見る側も異世界を冒険したような不思議な感覚でした。
言葉にならない衝撃を感じながら5年生はギャラリーを後にし、6年生の待つ体育館へ移動します。
司会のしげやんが、5年生に感想を聞きます。
「ぱってやったらとまって、またぱってやったら動いてすごかった。」
「おもしろいこともあればすごいところもあった。(肩車のところ)」
「先生が指示をしたらとまったり、てきぱきしてきれいだった。」
「はげしいところとかあってすごかった。」
 という嬉しい感想が飛び出します。
次に、「6年生、やってみてどうでしたか?」との質問。
しばらく、6年生からは言葉が出ませんでしたが、
「5年生にすごいと言われてうれしい。」
「上から見られて、自分がどんなおどりしている不安だったけど、よかったといわれてうれしい。」という感想が出ました。
「やりきったって言う人?」という質問には、みんなが反応します。
最後に、先生からの感想。
「めっちゃ止まると所、動く所、美しくない?今日のダンスは先生におしえてもらった?ちがうんです。いろいろな動きをする中で、みんなが考えて動いた動きなんです。6年生自身が考えて動いた動き。すごいと思わへん?
先生に決めてもらったのは、指揮者。自分がどうみえてるかわからないくらい。うごいている。
拍手・呼吸を忘れるくらい。涙出そうになりました。」
その後、5・6年生いっしょに、しげやんの動きのまねをします。もう、6年生としげやんは、息がぴったり。しっかりとしげやんを見つめ、一緒に動きます。「うてばひびく」が、体にしみこんでいる感じ。表情は、本番を終え、すっかり「プロ」の顔でした。5年生は、困惑気味。まねするのかな?でも、何の指示もないけど、どうすればいいのかな…と、きょろきょろしています。しげやんとの初めての授業の時の6年生のよう。
最後、6年生に向けて、しげやんから一言。
「プロっていうのは、うてばひびく。」
「みんながほんとに見て、ほんとうに見せてくれた。表現。ほんとにあらわれるまでやったので、5年生が、よかったといってくれた。結果出たやろ。この経験は、一生使えます。」
しげやんの、心からの言葉と、5年生からの嬉しい感想、そして何より自分達でやりきった達成感で、子どもたちは晴れやかでした。
最後に、挨拶をした後、ハイタッチでお別れです。さわやかな、晴れやかな締めくくりでした。
***ミーティング***
終わってから、最後の先生とのミーティング
しげやん「久しぶりにいいものみせてもらいました。
5年生の先生によると、「(5年生の子どもたちは)見ながら緊張していたとのこと。待っている間、“静かに見るように”という声かけをしていたが、踊っているときには、そうした注意をする必要も、雰囲気もなかった。」というコメントがあったそうです。それほど、6年生の踊りに引き込まれていたのですね。
6年生の先生からは、次のような感想が聞かれました。
「いつもは、あまり感想を言わない子が、“今日、成功してよかったです。”と言った。」
どんどんだれる感じなかった。すごい集中力と緊張だった。
最初の1時間目は、どんなことが始まるんやろ~どんなものができあがるんやろ~と思った。
子どもたちは、いいもの見せたいという気持ちがあった。表現するのが苦手な子どももいるが、工夫して、作って、こんなふうによくしようと、集中してできてよかった。
しげやんのような指導ができたらいいね、と話していました
止まる、動く、息を合わせるといったことは、今後の学習発表卒業式にいかせる。
今回の指導を思い出してやっていきたい。」
しゃべることで表現できない子がすごくいい顔になってた。こんな顔で私のこと見ないのにな。しゃべるばっかりという表現でなく、何もいわずに感じ合えるそういう指導をしたい。指導するのに、どうしてもしゃべらせようとする。何もないところから創作するということを学ばせてもらった。あの子たちの気持ちでできあがっていく。そういう作品づくりの仕方をしたい。当日、時間がない中で、いい感じになってた!ふだん教師側があせって、おしりたたきつつ(時間があるのにさせてしまう)やらせてしまう…」
しげやんからは、最後の5・6年生が集まったときの6年生の表情について、
一人一人の顔がどこにすわっててもよく見えた。
一人ひとりの顔がはっきりしていた」といいます。
今回、5年生に見せると聞いたとき、6年生は、自信なげな反応が返ってきたといいます。しかし、その時の表情とは、全く違う顔…一人ひとりが自信に満ちた顔になったのです。
あんないいWSないくらい、いい経験させてもらった。予想以上によかった。」としげやん。
先生によれば、放課後練習したいと申し出て、練習をした女の子のグループもあったとのこと。特に、前回は男の子が目立っていましたが、今回は、女の子もすばらしい成長をとげていました。
アシスタントのダンサーからは、「上からみてるとき、つい、自分が6年のときにこうやってたら、どうなってたかなと思った。何となく受け身になってしまう体そういうのを前にして、勉強以外のことで見せられるものがあるんだ。自分たちでうごきて、考える機会になったのでは。」
ダンサーとして同じフィールドに立っているという感じがした。」という感想が聞かれました。
しげやん自身は、「指導をする」「芸術の裾野を広げる」という意識はあまり無いといいます。
「学校という決められた枠がある場所で、学校のきまりを破らずに、最大限おもしろい作品を創ること、そして、子どもたちをプロのダンサーとして、対等な関係で向き合うこと。そして、どんなおもしろい作品を創れるか。世界中の人が見て、おもしろいダンスでないといけない。それを、小学校という限られた中でする。」
しげやん自身がプロのダンサーとして子どもと作品を創る上での哲学に触れながら、3回のワークショップで子ども・先生・ダンサー・スタッフそれぞれと関係を深められたことを喜び、桃陽小学校でのプログラムは幕を閉じました。

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