※6年生1・2組。各クラス1時間ずつの授業を実施しました。クラスによって授業の細かい流れや、雰囲気は異なります。今回は、最初に実施した6年1組の様子について報告します。
今日から、桃陽小学校での授業が始まりました。講師は、ダンサーの北村成美さんです。アシスタントは、下村さんと鈴木さん。6年生2クラスを対象にした授業です。全3回の実施で、最終日に発表をする予定です。
この学校の体育館は2階にあります。中間休みになると、担任の先生が挨拶と打ち合わせに来られました。続くように、6年1組の子どもたちが入ってきます。みんな思い思いにおしゃべりしたり、身体を動かしたりしています。
そうしている間にチャイムが鳴りました。いよいよ授業の開始です。
担任の先生から北村さんの紹介。「しげやんです!」の元気な挨拶に拍手!アシスタントの紹介の後、対面して、「よろしくお願いします」と頭を下げて、顔が上がると…もうワークショップのスタートです。
スーハ―、スーハ―。体育館に響くのは、呼吸の音。前に並んだしげやん達ダンサーは、子どもたちを見つめながら、呼吸を繰り返します。
咄嗟に同じように息を合わせて呼吸をする子も現れました。
一方で、何も言わずに突然始まった出来事に、(ん?何が起こってるの?どうしたらいいの?)と、興味深々に見つめる子もいます。他にも、お互いの顔を見合わせる子。しげやんの真似をする子…子どもたちの反応も様々です。それでも、しげやんは黙ったまま、続けます。
呼吸の次は、身体も動き始めます。正座をしたり、四つん這いになたり、立ち上がったり…。
前方の男の子を中心に7~8名の子たちは、しげやんの真似をしています。
一方で、後方の子たちは、しげやんの動きを見つめながらも、身体を動かすことには、躊躇している様子。
10分くらいしたところで、しげやんが、子どもたちを手招きしました。しげやんの周りに集まるみんな。
「何やってた?」、と問いかけるしげやん。
その後、しげやんから語られたのは、「プロ」についての話。
「プロフェッショナルとは、“自分で決めて自分で動くこと”。人に言われて動くことじゃない。私(しげやん)に言われて、動くのでも、先生に言われて動く のでもない。仕事をすれば、自分で決めて自分で動けない人は、稼げない。私はプロのダンサーだから、今回、みんなと、子ども向けの簡単で楽しいダンスでは なく、プロのダンスをしたい。」
しげやんは、そう言うと、近くに座っている子の身体に触れました。それに反応してしげやんと一緒に身体を動かす子どもの姿に、「そう。プロっていうのは、こんなふうに関わりができる。」と、話します。
「やることわかった人?」の問いかけに、みんなの手が挙がりました。
その姿を見て、しげやんから次の指示。「全員の顔が見える所に移動して。」
子どもたちは、静かに円を作りました。
「本当にそれで、みんなの顔が見える?」
人と人が重なっている所を直す子どもたち。
お互いの顔が見える円ができると、また、しげやんの呼吸が始まります。指示はないけれど、今度は、みんな真似をしていきます。
足の指を触ったり、ストレッチをしたり、おしり歩きで進んだり戻ったり。回転をすると、キャーキャーと歓声も響きます。
「今からもうちょっとプロフェッショナルなことをするよ。」
しげやんは、ぐるりと、子どもたちを見渡すと、ずんずんと近づき、一人の子の前で、手を差し出しました。
「え?おれ??」というように、首を前に突き出す子。しげやんも、その動きを真似します。周りの子どもたちは、そのやりとりを見て、にんまり。
その子は、しげやんに差し出された手をにぎり、腰を上げて、円の中心へ。しげやんのリードで、身体を動かし、回ったり、ひっぱったり、ひっぱられたり。言葉をつかわずに、呼吸と呼吸を合わせるように、身体が呼応します。
緊張しながらも、しげやんと子どもと二人のダンスが繰り広げられます。一人が終われば、また次の子どもと。
次は、しげやんが手を差し出すけれど、触れようとすると、手が逃げます。(ほ~ら、つまかえてごらん。)というように、逃げ出す手を追う子ども。そうするうちに、どんどんダイナミックな動きになっていきます。
周りの子どもたちは、微笑みながら、でも、じっとしげやんとクラスメイトの踊りを見つめていました。
じっと見つめる。お互いの動きを見て、さあ、どう出るか?
あらかじめ振り付けが決まっているのではない、即興のダンスが繰り広げられます。
数人の子どもと踊った後で、「集まろうか」としげやん。集まった子どもたちに、またしげやんが語ります。
「よう見てくれる人じゃないと、怖いしできひん。」と、「見る」ことの大切さを語るしげやん。
「リコーダーを吹いて、3秒後に音が出たことある?ないやろ。同時やろ。そのことを身体でしてほしい。」と、今回のテーマになるメッセージを伝えるしげやん。
さあ、今度は、みんながやる番です。でも、その前に。よくない例についての見本。
二人組で、相手は身体を動かすのに、もう一人は全然反応しません。こんな姿は、「見ててかわいそうやろ?」の問いかけに、うなずく子どもたち。
「どうぞ、はじめてや!」の合図で、二人組になり、身体を動かし始めます。
手をひっぱりながら、回る。相手の手に触れようとする人、それから逃げる人で追いかけっこ。お互いの動きに反応して、身体が動き、動かされていきます。音楽が響く中、体育館中で、二人の関わりの中から動きが生まれていきました。
今日の最後に、しげやんから語られたこと。
「オーケストラの演奏では、一人ひとり自分らの音を出している。指揮者が何かしてからやるのではない。同時に演奏している。」
「“打てば響く。”つまり、打ったときには、音が出る。返事に3秒かかるとか、あり得ない。」
「動きに対して反応すること」を、「音」に例え、今回ダンスを作っていく上でのイメージを共有したところで、授業は終了。
授業の後で、先生から、「今年の組体操は“ハーモニー”というテーマで取り組みました。“相手の呼吸に合わせて”というしげやんからのメッセージに、通じるものがありました。」との感想をいただきました。
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授業の中では、こんな場面も。
しげやんが集合をかけたところ、集まっているのだけれど、しげやんからは見えない所に座っている子がいました。
そこで、しげやんが一言。
「人の顔が見えない所に座ると、あなたとは、関わりたくないっていうように見えてしまう。自分ではそういうつもりではなくても、そういうふうに見えてしまうよ。」
表現に向き合うプロだからこそ、気付かないうちに表現してしまっていることの危うさを、厳しさを持って指導されたのでしょう。
身体そのものが表現しているメッセージは、発している本人が思っている以上に大きいものかもしれません。また、意図せざるところで、何かを伝えてしまっているのかもしれない。表現しないことも、また一つの表現であり、周りは、何かを感じとってしまう。
「踊る」という行為以前の、「身体」や「私」について、深い気付きをもたらすしげやんの授業。
言葉による指示が少ないだけに、「指示されて動く」のではなく、「自分で考えて動く」ということが要求されます。それは、「自分の行動に、自分で責任をとっていく」という姿勢にもつながる気がします。
また、「プロ」としての姿勢で子どもたちの前に立つしげやん。そして、「プロ」としての行動を要求される子どもたち。そんなしげやんの姿勢と、プロの気迫が伝わる真剣勝負の授業。
しげやんと、そして自分の身体、友達の身体と向き合う中で、子どもたちは、どんなことを学んでいくのでしょうか。
あと2回の授業が楽しみです。
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先生との打ち合わせより・・・
授業終了後の昼休み、先生とふりかえりを行いました。
二人の担任の先生からは、こんな感想が聞かれました。
- 子どもたちは、最初、戸惑っていたが、すごく身体を動かしたわけじゃないのに、しんどかった。でも、楽しかったと言っていた。
- 考えないと動けない部分のある子どもたち。説明を聞いて、一瞬で理解していくというトレーニングにつながる。
- プロフェッショナルの話は、キャリア教育として小学校なりに取り組む内容なので、とてもよかった。今回、ダンスの授業ということで、キャリア教育のことをお願いしていたわけではないが、していただけて、有難かった。
更に、しげやん独特の言葉に頼らない授業の進め方について、しげやんからは、次のような話がありました。
「“手をつなぎましょう。”というと、“え、つなぎたくないわ。”等、子どもたちの中にひっかかりを作ってしまう可能性がある。そういうひっかかりを、作りたくない。」
「“真似してください。”といえば、“真似なんかしたくない。”“真似すりゃええねんな。”というように、思ってしまうかもしれない。」
「“これ、やらんでええんやろか?”と、子どもたちが思って、自分でやることが必要。“やめていく子”と“やめない子”の違いはあっていい。」
しげやんの授業の進め方の背景にある様々な思い、そして経験から生み出されたテクニックについて、学ぶことができたふりかえりの時間でした。